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- 東急建設株式会社
AWS上にRAG対応の生成AI環境を構築し、
安全かつ実用的な社内ナレッジ活用を実現
JMASがPoCから本番開発までを遂行し、
運用開始後の回答品質の向上と機能改善も支援

目的
RAGベースの生成AI環境を安全かつ実用的な社内ナレッジ活用基盤として機能させ、社員が自ら業務効率化を推進する体制を作りたい
- 概要
- 東急建設株式会社(以下、東急建設)は、RAG技術を活用した生成AI環境の再構築に乗り出すことを決めた
- クラウドプラットフォーム上での検証環境の構築からデータ整備、PoC実施、有用性評価、本番環境の開発までを一気通貫で担えるパートナーとしてJMASを指名した
- Amazon Bedrock Knowledge BasesとAmazon OpenSearch Serviceを組み合わせ、S3上のデータを参照するRAGシステムを構築した
- RAGベースの生成AI環境は、主に文章の要約や翻訳、定型文書の作成補助といった用途で使われており、検索精度と回答品質の継続的な改善が図られている
- 課題
- 従来のチャット型生成AIでは社内文書や過去資料を参照できず、要約や翻訳など限定的な用途にとどまり、業務効率化につながっていなかった
- 情報漏えいやハルシネーションへの懸念、コンプライアンス上の制約から、現場部門を含む社員が安心して業務で使える生成AI環境を整備できていなかった
- 社内に蓄積された設計資料や報告書、過去案件のナレッジを、全社員が日常業務で活用できる共通基盤として定着させる必要があった
- 選定理由
- クラウド・生成AIの開発実績、コスト、技術力などの総合力
- クラウド・生成AIの専門家が伴走支援するサポート体制
- 効果
- RAGベースの生成AI環境を海外拠点も含む全社員に展開し、活用を深めている
- 生成AIを現場の業務フローに組み込むことでリリースから4カ月時点で約4000時間もの業務時間を削減した
情報漏えいやハルシネーションへの対策が不可欠

部長 柴富 久行 氏
東急建設は東急グループの一員として東急線沿線や渋谷駅周辺の都市開発をはじめ、全国各地の建物建設、インフラ整備を行う総合建設会社だ。2021年3月を始点とする10年間の長期経営計画”To zero, from zero.”では、「0へ挑み、0から挑み、環境と感動を未来へ建て続ける」という企業ビジョンの実現に向け、脱炭素、廃棄物ゼロ、防災・減災の3つの提供価値を軸に事業を推進している。
本プロジェクトを推進したのは、デジタル推進室 AI・デジタル基盤部 AI・データグループである。同グループは、全社横断でのデータ活用やデジタル施策の企画・推進を担っており、生成AIについても一部の専門部門向けではなく、全社員が業務で使える共通基盤としての整備を進めている。
一方で、各部門では過去の報告書や設計資料を探すのに時間がかかる、定型文書の作成や翻訳作業に工数を取られるといった課題を抱えていた。特に工事現場では、日報や各種書類を手作業で作成・管理するケースも多く、業務負荷の軽減とナレッジ活用の両立が求められていた。
デジタル推進室 AI・デジタル基盤部 部長 柴富 久行 氏は、「われわれは2024年にChatGPTベースの生成AI環境を構築しました。対話型AIチャットボットとして全社員に展開し、限定的な用途で使用してきました。ただ、情報漏えいやハルシネーションといった生成AI特有のリスクと、コンプライアンス上の制約の多さも重なってユーザによる活用が思うように進まなかったのです」と語る。
そこで検討されたのが、RAGを活用した生成AI環境の再構築である。RAGは外部データベースから信頼のおける関連情報を取得し、それをもとに大規模言語モデル(LLM)が回答を生成する技術だ。これにより、回答精度の向上とハルシネーションの抑制が期待できる。非公開の社内文書や顧客データなどをモデルに学習させることなく外部情報として活用することも可能だ。
デジタル推進室 AI・デジタル基盤部 AI・データグループ グループリーダー 嶽野 聡 氏は、「RAGを活用した生成AI環境の構築にあたっては、安全かつ実用的な社内ナレッジ活用基盤として機能するかどうかを検証し、その結果をもとに本番環境の開発に移行するのが現実的なステップです。そのためのノウハウと技術力、リソースを外部から調達する必要があり、システムベンダーの支援を求めることにしたのです」と話す。
生成AI環境の開発パートナーにJMASを指名し、
ユーザが直感的に使えるUI/UXを追求
AI・デジタル基盤部はRAGベースの生成AI環境の構築に向け、システムベンダーの調査を開始した。RFPにもとづき、AWS パートナーであるJMASとほか3社をコンペにかけ、比較・評価するプロセスを遂行。クラウド・生成AI開発実績、コスト、技術力、サポート体制などを評価し、JMASを選定した。同部が必要としていたのは、Amazon Web Services(以下、AWS )などのクラウドプラットフォーム上での検証環境の構築からデータの整備、PoC実施、有用性評価、その結果にもとづく本番環境の開発を一気通貫で実行できることだ。
2025年1月より、AWSをはじめとするいくつかの主要なクラウドプラットフォーム上にRAG環境を利用するための基本機能を実装し、PoCを開始した。検証内容は大きく、RAGがユーザのプロンプトと関連性の高い社内文書を正しく検索できるかどうか、検索結果をもとにLLMが高精度な回答をすばやく生成できるどうか、情報漏えい対策が有効かどうかの3点である。検証の結果、同社の要件に最も適したクラウドプラットフォームがAWSであることがわかった。
デジタル推進室 AI・デジタル基盤部 AI・データグループ 髙橋 義基 氏は、「JMASの生成AI・クラウドの専門家が環境構築から各種設定、チューニング、有用性評価などの一連のプロセスを円滑に進めてくれました。われわれの無茶な要求に対しても現実的な解を提示し、実行まで支援してくれたことが印象的です。AWSのRAGシステムが実用に耐えうることや本番運用を見据えたコスト試算を含む検証を厳格な基準のもとで行うことができました」と語る。
同部はAmazon Bedrock Knowledge BasesとAmazon OpenSearch Serviceを組み合わせ、S3上のデータを参照するRAGシステムを構築する方針を固めた。本番環境の開発では、JMASのエンジニアとともに、データ収集・整理、整形・クレンジング、分割したドキュメントのS3アップロード、ベクトルストアの設定などを実行した。あわせてデータ取り込みの改善やプロンプトの微調整を行うことで、生成AIモデルの回答精度を高めていった。
嶽野 氏は、「たとえ高度なRAGシステムを構築しても画面の見た目や使い心地が悪かった場合、ユーザはなかなか受け入れてくれません。そのため、JMASグループのUI/UX設計チームにも開発に参画いただき、UI/UXの実用性を追求しました」と話す。
実装後テストでは網羅性の高いテストケースを実行し、RAGシステムのすべての機能とセキュリティ、スケーラビリティ、パフォーマンス、バックアップ・リカバリという非機能要件が想定どおりに動作することを確認。セキュリティ面ではMicrosoft Entra IDによる認証と権限管理をRAGシステムに統合し、ユーザやグループごとに検索範囲を制限することでLLMの回答を通じて機密情報が本来アクセス権のない社員に漏えいするリスクを極小化した。
髙橋 氏は、「JMASは設計書や手順書、システム設計図などの各種ドキュメントをわれわれが望む品質で作成・提供してくれました。実は、それもあってスケジュールが遅れ気味になってしまう場面もありましたがJMASの対応力は見事です。われわれとの会議の頻度を上げて進ちょく共有などを密にし、リソースの最適配置を行うことで遅延分を吸収してくれました」と語る。

デジタル推進室 AI・デジタル基盤部 AI・データグループ 髙橋 義基 氏(右)
複数の生成AIモデルの回答を
横並びで一覧表示できる仕様に
東急建設では2025年9月より、各種AWSサービスを組み合わせたRAGシステムの本番運用を開始した。新たな生成AI環境は「To Question AIDE (TQA)」と呼ばれ、海外拠点を含む全社員が利用できる体制にある。現在は主に文章の要約や翻訳、定型文書の作成補助といった用途で使用され、業務活用シーンを徐々に広げている。
TQAは、ユーザが入力したプロンプトをChatGPT、Claude、Geminiの3つの生成AIモデルに同時に投げかけ、回答を横並びで表示することにより、異なるモデル間の出力を比較できる。嶽野 氏は、「各AIモデルは設計思想や学習データが異なり、それぞれ得意・不得意分野が明確に存在するため、ユーザが目的や用途に合わせてAIモデルを使い分けられるようにしています。単一のAIモデルの回答だけでは得られない気づきを見出したり、複数の回答を比較することで思考の幅を広げられるのがメリットです」と話す。
プロジェクトは第1フェーズを終え、実用性を追求する第2フェーズに移行。ドキュメント形式の整理やユーザフィードバックにもとづくプロンプトの調整を日常的な運用プロセスに組み込むことで検索精度と回答品質の改善を図っている。髙橋 氏は、「当面は1日に1回以上、生成AIに対して業務に関連する質問を行ったユーザの割合について全社員の10%を目標にしており、達成率は5割といったところです。リリースから4カ月時点で4000時間ほどの削減効果があったと試算しています」と語る。
定着化に向けた取り組みも活発だ。同部では、業務別のプロンプトテンプレートを作成・共有し、生成AIの利用を現場の業務フローに組み込むことで社員が日常的に生成AIに触れる文化を醸成している。また、経営層を含む全社員対象の生成AIワークショップも開催。具体的な業務シーンと効果的なプロンプトを実演したり、利用率や削減時間、生成コンテンツの質などのKPIを測定・共有し、生成AI活用への社内意識を高めている。
柴富 氏は、「生成AIの活用をさらに進めていくために、マルチモーダルやAIエージェントの組み込み、国土交通データプラットフォームとの連携など、第3フェーズでは建設現場業務の効率化を主眼とした機能を実装予定です。JMASには生成AI活用における最新の技術動向やユースケース、リスクなどの包括的な視点での情報提供と技術支援を引き続きお願いしたいと考えています」と話した。

会社プロフィール

- 社名
- 東急建設株式会社
- 本社
- 東京都渋谷区渋谷1-16-14 渋谷地下鉄ビル
- URL
- https://www.tokyu-cnst.co.jp/
東急建設株式会社は、東急グループの一員として東急線沿線や渋谷駅周辺の都市開発をはじめ、全国各地の建物建設、インフラ整備を行う総合建設会社である。2021年3月を始点とする10年間の長期経営計画
”To zero, from zero.”では、「0へ挑み、0から挑み、環境と感動を未来へ建て続ける」という企業ビジョンの実現に向け、脱炭素、廃棄物ゼロ、防災・減災の3つの提供価値を軸に事業を推進している。























